詐欺は「普通の自分」にもやってくる
判断力を奪われる前に
「私は、そんな詐欺にはだまされない」
ニュースを見ながら、そう思う人は少なくないでしょう。
けれど、詐欺に巻き込まれるかどうかは、知識の量や頭の良し悪しだけでは決まりません。
犯人が狙っているのは、その人の判断力そのものというよりも、
いつもの判断力が働かなくなる状況
なのだと思います。
怖がらせる。
急がせる。
期待を持たせる。
信頼させる。
秘密にさせる。
周囲から孤立させる。
そうして、誰かに相談したり、立ち止まって確認したりできない状態をつくっていくのです。
特殊詐欺は、すでに一部の高齢者だけの問題ではない
警察庁によると、2026年5月末時点の特殊詐欺の認知件数は1万8,067件、被害額は1,514.7億円に達しています。
なかでも、
- SNS型投資詐欺 700.4億円
- ニセ警察詐欺 403.2億円
- SNS型ロマンス詐欺 202.0億円
と、大きな被害が出ています。
いずれも暫定値ですが、前年同期を大きく上回る深刻な状況です。
SNS型投資詐欺やロマンス詐欺では、広告だけでなく、見知らぬアカウントから届くダイレクトメッセージが入口になります。
最初からお金を要求するとは限りません。
趣味や日常の話を重ね、親切な人、信頼できる人、好意を持てる人として関係をつくってから、投資や副業へ誘導します。
別のSNSやグループチャットへ移動させ、偽の利益画面を見せ、出金しようとすると手数料や保証金を求める事例も報告されています。
ニセ警察詐欺は「恐れ」と「権威」を同時に使う
ニセ警察詐欺では、
「あなた名義の口座が犯罪に使われている」
「あなたも捜査対象になっている」
「逮捕を免れるために資金を調べる必要がある」
などと伝えられます。
実在する警察署の電話番号を、着信画面に偽装して表示させる手口も確認されています。
その後、SNSやビデオ通話へ誘導し、偽の警察手帳や逮捕状を見せて、
「捜査中なので誰にも話してはいけない」
と周囲とのつながりを切っていきます。
しかし警察官が、SNSで連絡したり、警察手帳や逮捕状の画像を送ったり、資金調査を理由に送金を求めたりすることはありません。
犯罪の被害者だけでなく、実行役にされることもある
SNSには、
「高額バイト」
「即日即金」
「簡単な荷物の受け取り」
「詳しい仕事はDMで説明」
など、仕事内容を明らかにしない募集があります。
仕事だと思って応募し、身分証明書や家族の情報を渡したあとで、特殊詐欺の受け子や出し子、強盗などの実行役を命じられることがあります。
警察庁の資料では、2023年に特殊詐欺の受け子などとして検挙された人のうち、41.8%がSNSから応募したと供述しています。
相手に個人情報を渡してしまい、脅されていても、犯罪を続ける以外に道がないわけではありません。
一人で相手と交渉せず、警察へ相談することが必要です。
怖いと感じた瞬間、身体では何が起きるのか
突然、
「あなたは逮捕されます」
「今日中に手続きしなければ財産を失います」
「この機会を逃したら二度と利益を得られません」
と言われたら、落ち着いて考えられなくなるのは不思議ではありません。
頭が真っ白になる。
息が浅くなる。
身体が固まる。
視野が狭くなる。
電話を切りたいのに切れない。
相手の言うとおりにすれば、早くこの恐怖から抜けられるような気がする。
これは単なる「考え不足」ではなく、危険を感じた身体が身を守ろうとする反応でもあります。
ゼロ*護身では、ここに固める反射や原始反射の影響という、もうひとつの視点を加えます。
たとえば、反射の影響が強い状態では、
- 強い言葉を向けられた瞬間に固まり、電話を切れない
- 相手の話と自分の考えを分けにくくなる
- 怖い状況を早く終わらせるために、相手へ同意する
- 「今すぐ」と言われると、確認より行動を優先する
- 権威のある相手に反論できない
- 恥ずかしさから、誰にも相談できなくなる
といった困り方が現れる可能性があります。
(ただし、反射の未統合が詐欺被害を引き起こすという医学的な因果関係が、確立されているわけではありません。)
また、詐欺に遭った人を、
「反射があるから」
「判断力が弱いから」
と責めるための考え方でもありません。
誰にでも起こり得る身体の防御反応を理解し、日常から取れる行動を増やすための仮説です。
詐欺かどうかを、その場で見破ろうとしなくていい
巧妙な相手を、会話しながら見破ろうとする必要はありません。
大切なのは、正しく判断することより先に、
判断できる状態を取り戻すことです。
次の言葉が出たら、詐欺かどうかを考える前に、一度やり取りを終わらせます。
- 誰にも話してはいけない
- 今すぐ手続きしなければならない
- お金や資産を移動させてほしい
- 別のSNSへ移動してほしい
- 身分証明書や口座情報を送ってほしい
- 仕事内容は応募後に説明する
その場で使う言葉も、あらかじめ決めておきます。
「今、決めることはできません」
「一度電話を切って確認します」
「家族や相談窓口に相談します」
「SNSでは手続きしません」
相手にうまく説明する必要はありません。
ですので、相手の許可をもらわず、電話を切り、画面を閉じてかまいません。
身体を落ち着かせてから確認する
不安や恐怖を感じたら、まずスマートフォンを身体から離します。
両足が床に触れている感覚を確かめる。
周囲を見回す。
ゆっくり息を吐く。
別の部屋へ移動する。
声に出して「今は決めない」と言う。
それから、相手に教えられた電話番号やリンクではなく、自分で公式サイトや手元の資料から連絡先を調べます。
警察を名乗る電話なら一度切り、警察相談専用電話の「#9110」へ。
契約や投資、商品購入などの不安は、消費者ホットラインの「188」へ相談できます。
消費者庁|相談窓口・消費者ホットライン188
目の前で犯罪が起きている、脅迫されている、身の危険が迫っている場合は110番です。
すでにお金を振り込んでしまった場合は、できるだけ早く警察と振込先の金融機関へ連絡してください。
振込先口座にお金が残っていれば、振り込め詐欺救済法に基づく被害回復の対象になる可能性があります。
金融庁|振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ
反射の統合ワークが目指すもの
反射の統合ワークは、詐欺の手口を見破る技術ではありません。
また、詐欺被害を必ず防げると保証するものでもありません。
ただし、原始反射や防御反応が未統合のまま残っていると、強い言葉や圧力、不安や恐怖といった刺激に対して身体が過敏に反応しやすくなり、その結果として自分の意思とは違う選択をしてしまったり、冷静であれば避けられた判断を誤ってしまう可能性が高まることがあります。
たとえば、
- 怖さや圧力に反応して、考える前に同意してしまう
- 相手の強い言葉に押されて、断れなくなる
- 本来なら疑問を持てる状況でも、そのまま従ってしまう
- 「今すぐ」という言葉に反応して、確認を飛ばして行動してしまう
といった形で、意思決定のプロセスに影響が出ることがあります。
反射の統合ワークは、こうした身体の反応パターンを整え、刺激に対して過剰に反応しすぎない状態を育てることで、自分の意思に沿った選択をしやすくし、結果として詐欺などのリスクに巻き込まれる可能性を減らしていくことを目指しています。
立ち止まる。
嫌だと感じる。
相手から離れる。
助けを求める。
自分と相手を分ける。
感じたことを言葉にする。
そうした行動を、身体の選択肢として育てていく。
小さな違和感を無視せず、その場を離れ、誰かにつながり直す。
それが非常時にも使える、身体の護身になります。
誰かに「相談する」ことができる自分であること
詐欺は、人を孤立させます。
「誰にも言うな」
「あなたしか知らない情報だ」
「相談したら逮捕する」
「二人の将来のためだ」
そう言って、人と人とのつながりを切ろうとします。
だからこそ、日頃から、
「こんな連絡が来たんだけど、どう思う?」
と話せる人を持っておくことが、身を守ることにつながります。
相談することは、自立していないわけではありません。
一人では見えなくなった状況を、別の人の目も借りて確かめ、自分の判断力を取り戻す行為です。
詐欺から身を守るために必要なのは、知識だけではありません。
異変を感じ取れる身体。
一度立ち止まれる仕組み。
そして、困ったときにつながれる人。
事件が起きてからではなく、何も起きていない日常のなかで、それらを育てておく。
これもまた、命と暮らしを守る「ゼロ*護身」なのだと思います。

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